ペット(にわとりの夫婦)




私が小学生だった頃、自宅にはつがいのひよこがいました。縁日で買ってきた ひよこです。自宅の段ボール箱の中でピィピィなくひよこたちを見ては「早く 大きくなってね」と願うのでした。

それからというもの、毎日私は段ボール箱を覗き込む毎日でした。番いのひよこ はとても仲良く、小さな箱の中でじゃれあったりしています。餌も喧嘩すること なく仲良く分けて食べていました。

数ヶ月後、番いのひよこはいつしか鶏へと成長していました。オスの方は 毛色が茶色くなってきて、どことなくたくましくなっていました。メスの 方は全身真っ白でなんとなくきゃしゃに見えました。大きくなったことを 機に私たちは古くなったヒノキの風呂桶をこの子達に譲りました。風呂桶 を横たえて、風呂釜のところと、浴槽の上部に扉をつけて網を張ります。 そうして庭へと出したのです。このことが後に悲劇を生むとは予想だに しませんでした。

朝になると鶏夫婦のの良く通る声が聞こえてきます。オスの方は鳴きかたが 下手で「コーココケコッコーォ」などとやってます。近所の方もそれを目覚まし にしているようでした。近所の方もニコニコしながら「特徴のある鳴き声やから すぐわかるわ」と近寄ってきます。メスがたまごを産んだ日にはオスはたいそう 攻撃的になります。餌をやろうとしただけで「コケッコケッ」と攻撃の態勢を とります。本当に奥さんと子供想いのいい旦那さんって感じでした。

それから数日後の夜のこと。外でなにやらバサバサと暴れる音。それと同時に 「グェツココココッ!!!」という尋常ではないオスの声。メスの声はしません。 慌てて私たちは外を見ました。そのとき。信じられないような光景が…。 数匹のイタチが網を破って、今まさにオスの首根っこをくわえて逃げて行く ところだったのです。オスは必死に抵抗していました。私たちは素足のまま 棒切れを持ってイタチを追いかけました。転々と滴り落ちている黒い塊。それは オスの血痕だったのです。ようやくイタチはオスを放し、逃げていきました。 私はその場面まで行く事ができずにたたずんでいましたが、父がボロ切れのよう になってしまったオスをいとおしそうに持ってかえってくるのが見えました。

オスはすでに息絶えていました。しかし、メスの姿が見当たりません。方々 探しました。と、パサパサっとかすかに音がしました。よく見ると風呂桶の 風呂釜部分の小さな窪みに押し込まれて、ガタガタ震えているメスを見つけた のです。おそらく、とっさにオスが隠して自らの命を犠牲にして彼女を救った のでしょう。彼女は身動きもできないくらいに恐怖におののいていました。 そんな彼女を私たちは部屋の中の風呂桶へと移し、様子を見たのです。

翌朝、それまで毎日たまごを産んでいた彼女は、たまごを産みませんでした。 鳴くことすら忘れてしまったかのようです。彼女が鳴くことを思い出し、 元気を取り戻したのはそれから1週間後でした。

夫婦が危険な目にあったとき、あなたならどうしますか?鶏の夫は妻の 身を、自らの命を投げ出して救ったのです。鶏に夫婦愛の強さを教わった ような、そんな気がしたのです。 鶏にできて、人間にできないはずが無い…って。


<完>

Written by Marumi.