◆私の好きな鉄道風景◆ −3−

私の好きな鉄道風景
−3−


時は八月。根室から私は一路稚内(わっかない)を目指しています。夜行列車である 急行利尻は音威子府(おといねっぷ)駅を出たところ。時計は午前3時過ぎ。車輪が丁 寧にレールの継ぎ目を拾う音に心地よい感覚を受けて…。 ここは、北海道の宗谷本線。最果ての地、稚内への旅です。

幌延(ほろのべ)駅を過ぎた頃、車窓に明るみが増してきました。幌延はアイヌ語の「ポ ロ・ヌプ(大きな平原)」から来た地名だそうです。事実、ここ から海岸に向かって「サロベツ原野」が広がっています。南下沼(みなみしもぬま) 駅を過ぎたところは切り通しになります。聞くところによると、ここは以前 トンネルであり、男女の幽霊が出るという噂などがたったためにト ンネルを崩して切り通しにしたのだそうです。背筋がぞっとするような 噂ですね。

列車は北海道の内陸を蛇行しながら進みます。下沼駅の左手にはパンケ 沼、ペンケ沼があります。「パンケ」とは「下」を、「ペンケ」とは 「上」を意味するアイヌ語です。また駅の左には「サロベツ原生 花園」があるというのですが、この車内からはその美しい姿を 見ることは出来ませんでした。

豊富(とよとみ)駅付近で朝日が昇り始めました。同時に、左手遠くに、朝日を浴び て雄大に浮かぶ「利尻富士(利尻山)」が見えるようになります。海が 凪いでいるために、その姿が海に映り非常に美しかったことを今でも 覚えています。朝一番の素敵なお出迎えです。しかし、レールは蛇行し ているために、その姿は一瞬しか見ることが出来ません。この一瞬のため だけに私は寝ずにいたのです。

しばらくすると、南稚内。ここは旧稚内駅です。その次が終着稚 内。ここは旧稚内港駅でした。稚内港からは南樺太までの稚泊航 路が就航していたのです。稚内駅の先、海岸線にはサハリンへの連 絡口であった風を防ぐためのドームがあります。

後ろの小高い丘の上には、稚内公園として、氷雪の門、乙女の像な どがあります。映画「南極物語」で活躍したタロ・ジロもここに出勤し ていたといいます(現在は老衰のため亡くなったそうです)。乙女の像には悲 しい事実があります。電話交換手の7人の乙女たちが集団自決を遂げた のです。最後の言葉が「さようなら。さようなら。これが最後です」というものでした。

ノシャップ岬も車ですぐ。ここには日没は何時頃になるかという掲示があります。 これに合わせて、稚内公園へ行き、高台から沈む夕日を見るのは素敵でしょうね。

−3−完−
Written By marumi 1999.