幌延(ほろのべ)駅を過ぎた頃、車窓に明るみが増してきました。幌延はアイヌ語の「ポ ロ・ヌプ(大きな平原)」から来た地名だそうです。事実、ここ から海岸に向かって「サロベツ原野」が広がっています。南下沼(みなみしもぬま) 駅を過ぎたところは切り通しになります。聞くところによると、ここは以前 トンネルであり、男女の幽霊が出るという噂などがたったためにト ンネルを崩して切り通しにしたのだそうです。背筋がぞっとするような 噂ですね。
列車は北海道の内陸を蛇行しながら進みます。下沼駅の左手にはパンケ 沼、ペンケ沼があります。「パンケ」とは「下」を、「ペンケ」とは 「上」を意味するアイヌ語です。また駅の左には「サロベツ原生 花園」があるというのですが、この車内からはその美しい姿を 見ることは出来ませんでした。
豊富(とよとみ)駅付近で朝日が昇り始めました。同時に、左手遠くに、朝日を浴び て雄大に浮かぶ「利尻富士(利尻山)」が見えるようになります。海が 凪いでいるために、その姿が海に映り非常に美しかったことを今でも 覚えています。朝一番の素敵なお出迎えです。しかし、レールは蛇行し ているために、その姿は一瞬しか見ることが出来ません。この一瞬のため だけに私は寝ずにいたのです。
しばらくすると、南稚内。ここは旧稚内駅です。その次が終着稚 内。ここは旧稚内港駅でした。稚内港からは南樺太までの稚泊航 路が就航していたのです。稚内駅の先、海岸線にはサハリンへの連 絡口であった風を防ぐためのドームがあります。
後ろの小高い丘の上には、稚内公園として、氷雪の門、乙女の像な どがあります。映画「南極物語」で活躍したタロ・ジロもここに出勤し ていたといいます(現在は老衰のため亡くなったそうです)。乙女の像には悲 しい事実があります。電話交換手の7人の乙女たちが集団自決を遂げた のです。最後の言葉が「さようなら。さようなら。これが最後です」というものでした。
ノシャップ岬も車ですぐ。ここには日没は何時頃になるかという掲示があります。 これに合わせて、稚内公園へ行き、高台から沈む夕日を見るのは素敵でしょうね。