◆私の好きな鉄道風景◆ −21−

私の好きな鉄道風景
−21−


夕闇の迫った街に、会社帰りの人々が群れています。東京駅もそんな 風景を醸し出しています。大手町近辺のビル群から多くのビジネスマ ンが吐き出されてきます。そのまま銀座方面へ向かう人々、東京駅か ら自宅へと急ぐ人々、様々です。

赤い煉瓦作りの東京駅も、熱気が立ち込めているようです。到着する列車は どれも満員の状態で、疲れた乗客がホームに四散します。この駅は、 新幹線や寝台特急などで言えば終着駅ですが、終着駅とい う雰囲気を感じることはほとんどありません。上野駅には東北の訛りが聞こえると 著名人が言ったこともあるけれど、東京駅にはそういった雰囲気が伝わって こないのです。

やはり、大都市と大都市を結ぶ東海道の終着駅では、訛りも聞き取 れないのでしょうか。あるいは、あまりにもメジャーな訛りとなっ て、故郷意識を得られないのでしょうか。人々は、思い思いに東京駅 を乗り継ぎ駅として通り過ぎていきます。

そんな東京駅でも、新幹線ホームにはドラマがあります。往年、CMで シンデレラエクスプレスと言われた21時発新大阪行きの「ひかり」は無くなっ ていますが、21時18分に「のぞみ」が走ります。新幹線ホームはカップル が溢れます。車内とホームでお互いの別れを惜しむ姿があちこちで見られます。 日曜日に一緒に過ごしたこと、夕暮れに見た星空のこと、いろいろな思い が走馬灯のように駆けめぐっているのでしょう。

22時46分、多くのカップルの思い出と涙を拭うように、最終三 島行きこだま号が発車していきました。

新幹線ホームの灯は消されましたが、在来線は、まだまだ人が行き来しています。 ますますお酒を嗜んだ人々が増えます。目の前の中央線ホームでは24時35分 の三鷹行き最終が出ていったようです。「最終電車ですのでお乗り遅れ にならないように」との放送が聞こえてきます。駆け込み乗車の乗客の最 後の一人まで待ってから発車していきます。最終電車ということで、多 少の遅れは考慮しているのでしょうか。

徐々に東京駅が闇に閉ざされようとしていました。25時02分、山手 線の列車が発車したとき、東京駅に眠りの時間がやってきます。照明 がひとつひとつ消えていきます。

東京駅の朝は早いのです。今夜はどんな夢を見るのでしょうか。手を振りながら 泣いていたあの女性のことでしょうか。酔ったままホームで寝てしまっていた あの人のことでしょうか。そんな事を東京駅の見下ろせる「東京ステーション ホテル」にて思っていたのです。

−21−完−

時刻は、この文章執筆のときのものを使用していますので、現在は 異なっているものと思います。


Written By marumi.