◆私の好きな鉄道風景◆ −24−

私の好きな鉄道風景
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その日は台風17号の影響で、雨足が強まり始めていました。網走(あばしり)で定 期観光バスに乗り、博物館網走監獄や流氷館を巡っていました。バスの 車内で知り合った女性の方と話していたのですが、その方は女満別(めまんべつ) 空港から 千歳空港を経由して名古屋へと帰られるのだそうです。しかし、女満別空 港は、そのときには運休していたかもしれない。その女性は、運行して いなかったらラッキーなんだけどなぁと言っていました。

そんな会話を人ごとのように聞いていた私は、網走発の列車に乗り 込みました。斜里(しゃり)駅方面へ向かう列車です。当初の予定では、原生花 園(げんせいかえん)駅で下車して、1時間後に来る列車で摩周 駅へ向かおうとしていたのですが、折からの雨と風にこの計画を断 念することになってしまいました。

この変更は私にとって正解だったかも知れません。藻琴(もこと) 駅から、運転規制ということで、25キロ以下で走るということになった ようです。車掌さんの話によると、いつ斜里駅に着くかわかりませんというのです。

20分ほど遅れて原生花園駅に到着。当然ながら誰も下車しようとはしません。 そんなとき、一人の学生風の男性が、運転士さんに話しかけ、豪雨の中を 飛び出していったのです。ずぶ濡れになって戻ってきた彼の手には、原生花園駅の硬 券入場券が握りしめられていました。彼を待って列車は発車。おくれつ いでとはいえ、ローカル列車特有のほのぼのさですね。

列車が終着斜里(しゃり)駅に到着しました。乗り換えの列車は1時間 後に来るはずでしたが、折からの台風で「斜里から先は運休と します。復旧の見込みはありません」というアナウンスがなされた のです。これには、私はびっくりです。

私は今夜の宿を摩周(ましゅう)駅付近にとってあるので、どうしてもそこへ行きた かったんです。駅前には斜里バスがあるのですが、希望の地へは運行されていません。 それどころか、知床(しれとこ)方面のバスは崖崩れのために運転中止とい うものまであります。私は、タクシーに乗ることを考えました。ちょうど駅 前にいたハイヤーの運転手さんに聞くと、1万円ちょっとかなというので、 それを聞いて、私は駅構内へ戻りました。そして「摩周駅の方へ行かれる方、 いらっしゃいませんか?」と聞いたんです。すると男性2名、女性1名、合計3 名の手が上がったのでした。

かくして、4名を乗せた斜里ハイヤーは、川のようになった道路を 摩周駅へと向けて走り出しました。摩周駅付近でメーターが1万2千円 を越えました。でも運転手さんはメーターを倒し、1万2千円でいいやと いいながら私たちを宿へとつれていってくれたのです。そう、このハイヤー に乗車した4名は、偶然だけど全員が同じ宿の予約をとっていたのです。 一人3千円の豪雨の旅は、こうして幕となります。

−24−完−
Written By marumi.