◆私の好きな鉄道風景◆ −25−

私の好きな鉄道風景
−25−


駅舎が改築のために、お手洗いが縮小されています。 駅前には、小さな雑貨店がいくつか並んでいるだけ。 駅舎には人の姿はなく、 自転車に乗った子供たちが改札口から入り込みホームを横行しています。 だだっぴろい敷地に単線路があり、 一両だけの気動車が次の発車時刻を静かに待っているようで、 その気動車に赤トンボが群れています。

のどかな雰囲気のここは、留萠本線、増毛(ましけ)駅。 あるバスガイドさんは「アデランスの駅」と言いました。 でも本来ここは、アイヌ語の「マシュケ・ニ(漁獲の多い所)」 「マシ・ケ(カモメの多い所」ということで、漁獲が多いという言葉が訛ったものだそうです。 でも近年は、この駅の入場券を父の日の贈り物として利用している方もいるようですから、 まんざらうそでもなさそうです。ここの駅構内には「縁起切符は留萠(るもい) 駅で発売しています」と書いてあります。この増毛駅は無人駅なので入場券は、 留萠駅で発売しているのです。

海岸を左手に見ながらのんびりした気動車は走ります。ワンマンカーです。 信砂(のぶしゃ)駅を過ぎると、面白い音(おん)の駅に停まります。 阿分(あふん)駅。どういう経緯で名付けられたのか興味があったのですが、 乗り継ぎ列車などの予定があった私はそれを調べずに過ぎました。

石狩沼田駅では上下線の気動車の行き違いをします。かなりの時間停車していたようですが、このような鉄道に乗車していると、その時間も苦にならなくなってくるから不思議です。 10分停車などはあたりまえに思えてきます。 ようやく行き違いが完了し、次の駅に停車。ひとつずつ丁寧に停車していきます。 駅名は「北秩父別(きたちっぷべつ)」。 このあたりもさすがにアイヌ語源なのでしょうか、難読駅名が軒を連ねます。 さらに次の駅名が「北一已(きたいちゃん)」。 始めて見た方だったら絶対に読めるわけないですよね。

増毛駅から、深川駅まで直通電車だと約1時間半。距離にして、約67キロです。 東京や大阪などの都市部の列車の忙しさに比べたら、 こちらの列車は、超鈍速列車に見えるかもしれません。 一本乗り遅れたら2分後に電車があるというようなことはなく、 一本遅れたら2時間ないしは3時間待つことになります。

都会を離れて、のんびりしたい旅には、 このくらいのゆとりがあるのもいいんじゃないかしら。 待合室では見知らぬ同志が時間を共にして、その間で会話が生まれます。 都市部では考えられないことです。 まったくの初対面なのに「今日はいい天気だねぇ」などと話しかけてくれます。 売店のおばさんも「気をつけて旅続けてね」と言ってくれます。

時間のゆとりが、心のゆとりとなっているような気がする一瞬です。

−25−完−
Written By marumi.