◆私の好きな鉄道風景◆ −28−

私の好きな鉄道風景
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「どこへ行こうかな」いつもそう思っている私に、私鉄でSLが運 転されていると教えてくれた人がいました。私はすぐさま時刻表で確認 する作業に入りました。その私鉄とは「大井川鉄道」です。

東海道本線の金谷(かなや)駅から「大井川鉄道」に乗車します。この線では 定期的にSLを運行しているのです。この汽車は指定席でした が、私の乗車する予定の5号車はホームから外れたところにあります。 しかたなく、3号車のデッキから乗り込み前方へと進みます。このときは お座敷車両も連結されていて次の新金谷駅から団体客が乗り込んできました。

大井川鉄道は、千頭(せんず)駅を境に「井川線」「大井川線」となっています。 今日は、その全線に乗車する覚悟でいます。この線区には難読駅名が多い ですね。

 ★ 大和田:おわだ、抜里:ぬくり、地名:ぢな、五和:ごか

「私が、専務車掌です」一際高い声が車内に響きましたた。結構年輩の 女性車掌さんです。ガクンという揺れと共に汽車は発車しました。 次いで「シュボーォ〜」という汽笛が響いたのです。「汽笛と発車の順序が 逆になってしまいましたね」と専務車掌さんはマイク片手に話します。 「SLのことならおまかせください」と付け加えもしました。踏切が近 づくと「シュボーォ」と汽笛を響かせます。窓外を見ていた私は、 電柱に「笛」の記述ではなく「汽笛」という記述がなされている事 に気付きました。「♪汽笛一声金谷を〜という感じで発車しました」 「この沿線には狸がいるんですよ。汽笛の音に誘われて、のそのそと 出て来るんです。ホラ、左手を見てくださ〜い」一斉に乗客が左手の 窓下に注目します。でもそこにはお馴染みの狸の置物があっただけ。 乗客は、冷ややかな笑いを返していました。汽車は平均20パーミル[‰] という登り勾配を駆け抜けていきます。

「みなさーん、左手にもうすぐ、大井川に架かる吊り橋がみえま す。電線みたいに見えますが、あれがそうです。中央には40セン チ位の板が置いてあるだけのものです。誰かが渡っていれば良かっ たのですがね」塩郷(しおごう)駅を過ぎてすぐ左に大井川に架かる吊り橋が折 からの寒風に揺れていました。この辺りは「川根町」です。河岸段丘 の崖には「川根茶の里」という文字が鮮やかに塗り込まれていました。

汽車が下泉(しもいずみ)駅に到着した頃から外に白い物が舞い始めました。 千頭駅の奥はかなりの雪が降っているような雰囲気です。大井川沿い に登ってきたSLは、上流に来て曲がりくねった大井川を何度かま たぎ、終着の千頭に到着です。定刻より5分遅れていました。

−28−完−


Written By marumi.