◆私の好きな鉄道風景◆ −31−

私の好きな鉄道風景
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上野駅は、東北の入口と言われています。それを実証するかのように東北 訛りの人々が大きな荷物を抱えて横行しています。今回の私はこの駅 から東北への道は辿りません。途中、高崎駅から別荘群のある軽井沢 へと向かうことにします。

特急あさま号に乗車すると、テニスのラケットを持った女子大生達 が黄色い声で話しています。この子達も軽井沢に行くのかなと思 いながらも私は自分の行程を考えていました。10時ちょうど、あさま 号は定刻に発車しました。目的地の中軽井沢駅までは、2時間たらずの 旅です。

高崎まで新幹線に沿って走ってきたあさま号は、ここで左へとカー ブします。心なしか勾配が急になってきたような気がします。高崎を出 てから、約15分ほどで横川駅に到着です。時刻表を見ると、高崎から横川までは 20分以上かかっているように見えるかもしれませんが、時刻 表では発時刻しか記載されていないために、駅での停車時間を推し量るこ とはできません。実際は、この駅で後押し(下り勾配のときは前押さえ)の ための機関車を増結する作業が入るために、かなりの時間停車するのです。 ここ横川駅では、有名な「峠の釜めし」なども販売しています。素焼きの釜に 入った山菜弁当は記念にもなりそうでついつい買ってしまいます。この峠 というのは碓氷峠のことだとおもいます。同じ峠で「峠の力餅」とは全然 違いますから。良く間違うんだけど、「峠の力餅」は奥羽本線の峠駅付近で 販売しているものです。

私は、一折買い求め、機関車が増結されたショックを感じながら、 箸を動かしていました。横川から次の軽井沢までの間に、群馬県と長野 県の県境があります。また、この区間は峠越えの急勾配です。今でさえ 機関車一機の後押しで済むんですが、往年は砂を撒きながら走行したこと もあるということです。勾配が急なのを感じるには、車内にいても充分に味 わえます。列車のモーターの響きが途端に大きくなり、速度もゆっく りとなるからです。事実、この区間11キロほどを、実に20分をかけて走 行するんです。「20分でも昔に比べたら速くなったんですよ」と、 ちょうど通りかかった車掌さんが教えてくれました。

喘ぎながらという表現が正しい走行を終えた列車は、ようやく水平 の軌道に入り、軽井沢駅に到着しました。思わず「お疲れ様」と言いたくなる ほどです。ここ軽井沢では、横川で増結した機関車を切り離します。 つまり機関車は、この坂道の上り下り専用になっているのです。 坂を下るときには、機関車を列車の前に付け、必死になってブレーキをかける のだそうです。雨が降った日などには神経を使うと、さっきの車掌さんが おっしゃってました。

平坦になった軌道を数分走ると、目的地中軽井沢です。ここは、 昔は「沓掛(くつかけ)」と呼んでいたのです。なかなか趣のある駅名 だったのですが、軽井沢にあやかろうと思ったのか名称を変更したのだそうです。 なんだか、味気なくなっちゃいましたね。

−31−完−


Written By marumi.