◆私の好きな鉄道風景◆ −48−

私の好きな鉄道風景
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12月3日はJRのダイヤ改正のあった日です。この改正によっ て、寝台特急がひとつ消えていきます。寝台特急みずほ。

17時48分、東京駅の工事のために狭くなっている9番線にゆっ くりと滑り込んでくるブルーの車体。33年間走り続けてきたこの特急もあと数 日で二度と走らなくなります。そんな別れを惜しむかのようにカメラを 持った人々がホームを行き交っています。

私はこのみずほに乗ってみようと思ったのです。九州へ行くことが目的で はなく、ただこのみずほにだけ乗ってみたかったのです。みずほは、途中 鳥栖駅で、長崎行きと熊本行きに分割されます。せっかくだからと往 路は熊本へ、復路は長崎から乗ることにしました。

A寝台は、昼間は座席になっています。連れ合いと向かい合わせに座 って車窓を流れる景色を楽しむことにしました。廃止になると聞いてからか、乗客 の数は増えているようです。19時半、列車が熱海を過ぎようとした頃からA寝台 のある2号車が活気づいてきました。係の人がせっせと座席を寝台に作りかえ ていくのです。自然と2号車に人が集まり撮影会が始まります。パタンパ タンと実に手際よく座席は寝台へと生まれ変わっていきます。

列車が浜松を過ぎた頃でしょうか、今まで車内をワゴンで売り歩いて いた係員さんが、今度は「食堂車にて営業を始める」とのこと。食堂車 は本来営業していないのですが、ここの座席を開放して、売店方 式で営業するようです。売っている物も少なく、たこやきやカレー、牛 丼といった軽食にビールなど。私も座席を確保し、たこやき とビールで乾杯しました。何に乾杯したのかわかりませんが…

大阪を過ぎた頃から酔いが程よく回ってきて、私たちは眠りにつく ことにしました。日付も変わって...。座席から生まれ変わった寝台は 広く、寝返りも充分に打てる広さがあります。また女性のためにか、更衣室という のもデッキにはありました。カーテンを引き、ベッドに横になってかすか に開けたブラインドの陰から外を眺めると、車窓に懐かしい神戸の街並が通り過ぎて いきました。

東京から熊本まで17時間と7分。東京から長崎まで18時間と4 分。新幹線や飛行機を使ったなら、もっともっと早くつくでしょう。 でも、寝台特急でしか味わえない何かがあると思うんです。その何かを見 つける前に、ひとつ消えていくんです。みずほの由来にもなった瑞々しい 稲穂を、走りながら沿線に二度と見ることはないのでしょう。

下関車掌区の方、運転士の方の表情はどことなく淋しそうでもありました。 それでも、みずほに向かって、精一杯こう言ってやりたいと思います。

「お疲れさま、みずほ」

−48−完−
Written By marumi.