◆私の好きな鉄道風景◆ −50−

私の好きな鉄道風景
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ふるさとライナー九州号は文字通り、朝になって「厚狭(あさ)駅」に到着しました。 今日はここから美祢(みね)線に乗って、南大嶺(みなみおおみね)駅から大嶺支線 といわれている路線に乗ってこようと思います。厚狭駅を1番に出る仙崎行きは たった一両の気動車。まだ外は暗い闇が支配しています。冷え切った空気の中で、 気動車はブルルンと身震いして、走り出しました。

山陽本線の広い軌道敷に沿ってしばらくいくと、薄暗い単線路へと行く手を変えます。 大嶺支線といわれている美祢線の支線に乗ろうと思って、南大嶺駅でいったん下車 します。まだ午前7時前。眠いしおなかすいたしでちょっとぐったり気味です。 乗り継ぎの大嶺行きも古めかしい気動車です。大嶺駅までわずか1駅。このわずか 1駅間だけが廃止になるということらしいです。朝日が昇り始めて駅舎の一部を 赤く染めています。構内には人の姿はなく運転士さんは扉を締め切って車内で くつろいでいらっしゃいます。

おもむろに改札を抜けてみました。改札と言っても無人なので素通しです。窓口らしき ものもありますが、ここは開いているときがあるのでしょうか?木製のベンチシート がいくつか並んでいます。ふと見渡すと運賃表の下あたりにノートがたくさん置いて あるのに気付きます。「大嶺線・たびノート」と書いてあります。ぺらぺらと めくってみると、いろんな方がこのノートにその思いを書き付けていました。 なんども読まれたのでしょうか、ノートの一部は綴りがほつれているものも あります。ノートは、ひとけのない駅舎内でじっと誰かが読んでくれるのを 待っているかのようです。こういった想い出のノート、機会があれば出版など して往年の想い出を一般に知ってもらってもいいんじゃないかなぁって思います。 おそらく、こういうノートはボランティアで設置された方の手元に残って、 回収後は人目に付くこともなくなってしまうのでしょう。

「ぶるるん」と気動車が一瞬身震いをしました。朝日は昇り切って、いつしか 青空も見えています。終着駅を彷彿とさせる駅。はしっこまで行ってみたりしました。 東京駅だって、上野駅だって終着駅と言えなくはないけれども、こういったひとけの ない終着駅は、なんだかわびしい気持ちになります。これは、廃止ということが 近日中に襲ってくることから来ているのかも知れません。

廃止と聞いて、鉄道ファンは訪れます。それでいて「こんなに満員なのは、この 線らしくない」という人がいます。あまりにもわがまますぎますよね。廃止が 決まる前に乗ってあげれば、廃止にならないかも知れません。「いつか行ってみよう」 と思っていると、いつのまにか無くなっているということは、よくあることです。 「孝行を したいときには 親はなし」という川柳もあるほどです。廃止になるから という理由だけでそこを訪れるのはできれば避けたいことだと思います。

大嶺支線は、近くに迫った廃止の日に立ち向かうように、今日も身震いをしています。 「ぶるるんっ」って。


後日「大嶺線・たびノート」を置かれたという方より連絡がありまして、 現在は山陰本線「特牛(こっとい)駅」に置いているそうです。ただし 駅窓口が開いている時間帯しか見ることはできないそうです。

−50−完−
Written By marumi.