◆私の好きな鉄道風景◆ −54−

私の好きな鉄道風景
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焼物で有名なところに、伊万里(いまり)という街があります。今日はこの駅から 松浦鉄道に乗って有田(ありた)駅まで移動することにします。伊万里駅の券売機 で切符を買うと隣で外国の女性たちが何かしら悩みながら手に持ったメモと券売機の 漢字で書かれた行き先表示を見比べています。そしておもむろに金額のボタンを 押してしまったところから、ことは起こったのです。

まず彼女たちは松浦鉄道の車両に付いている「乗車整理券」に戸惑いました。 私は彼女たちのあとから乗車したので、彼女たちに「チケットを取っておいてね」 とつたない英語で教えてあげました。すると彼女たちは「私たちは、もうチケットは 買った。なぜまだ取らないとだめなの?」と問い返してきました。一瞬答えに困り ましたが、一生懸命に簡単な単語を並べてこう答えました。「それは、運転士さんが あなたたちがどこから乗ってきたかということと、何人乗ったかということを 調べるためのチケットだから、取っておいてくださいね」と。なんとか納得して くれたみたいで乗車整理券については無事通過。

電車は郊外を走ります。もうひとつの焼物の街、有田はすぐ近く。

有田駅到着時には、また彼女たちが一悶着をはじめていました。今度は 運転士さんとです。聞いているとこんな感じでした。運転士さんは日本語で、 彼女たちは英語で応戦しています。

運転士:あなたたちは間違って乗ってますから、ここで降りてはいけません。
彼女達:私たちは有田に来たんです。だから降ろして。
運転士:あなたの持っている切符は有田までのじゃないですから、乗った方向が 逆なんです!間違っているから引き返してください。

ともかく話が噛み合っていません。同じ車両にいた高校生たちは見て見ぬ振りをして 下車していきます。そしてホームから遠巻きにこちらを伺っています。このときも また私は彼女たちのあとから下車しようとしていたので、彼女たちの英語を聞き 運転士さんに話してあげました。伊万里駅乗車時に一生懸命悩んでいた彼女たちを 知っていたのでそれも話しました。彼女たちの持っている乗車券を見ると、たしかに 逆方向のものです。でも伊万里から有田までの運賃と同じだったのです。このことを 運転士さんに確認して彼女たちを下車させてもらうことができました。

納得の行かない顔をしている彼女たちに絵を描いて説明しました。 「あなたたち、伊万里からこっちの方向の切符買っちゃったみたいね」と。 そうして4人は外国人特有の「Oh!No!」のポーズでおどけて大笑いしたのでした。

それも仕方ないことです。彼女たちが持っていたメモには「Arita *** yen」などと 書いてあったのです。でも券売機には「有田 *** 円」とあります。*** 円区間 だったら有田行きだと思うのも仕方ないでしょう。

にわか友達となった4人はそれから博多まで楽しく語り合いながら過ごしたのでした。 彼女たちは、福岡空港から母国のスイスへと戻られるようです。「ニッポンスキデス。 ドモアリガト。バイバイ!」っていう言葉、いつまでも忘れないでいます。困った ときはお互い様。一生懸命になれば言葉の障害なんて越えられると思った瞬間でした。


−54−完−
Written By marumi.