◆私の好きな鉄道風景◆ −55−

私の好きな鉄道風景
−55−



「私の好きな鉄道風景」も「55」となりましたので、ここで「5」にまつわる お話をしますね。

ある年の5月5日、私は再び東北の五能線に乗りに来ていました。座席指定席券を 見ると、5番B席とあります。このときにはまだなんにも知らずに、ただ 「良く晴れていて気持ちがいいなぁ」ってくらいでした。

東能代駅からノスタルジックビュートレインに乗り込むとなんとなく雰囲気が 違うことに気付きます。

ノスタルジックビュートレインは、バスケットの街といわれる能代を疾走 していきます。海から寄せてくる潮風と春の麗らかな陽射しがものすごく 気持ち良いです。思わずデッキに立って、流れていく景色に見入っていました。 海岸線のすぐ近くを列車は走ります。陽光が水面に反射してきらきらと 輝いています。

列車が中間の駅「深浦(ふかうら)」に到着しました。この深浦駅では 上下のノスタルジックビュートレインがすれ違う要衝の駅です。でも 先回ここに来たときとはまったく雰囲気が違っていました。どこが!?と いうと、ものすごくにぎやかだったのです。ホーム上ではイカ焼きが馨しい香りを させていたり、とうもろこしの焼ける香りがしていたりとお祭り騒ぎです。 すると車掌さんよりアナウンスがあって、ここではじめて「今日がどういう日か」 知ることになるのです。「本年で五能線は開業55周年を迎えました。本日は 5月5日と5が並ぶ日です。そこで、突然で申し訳ありませんが、 5番のA席にお座りの方、少々ご協力いただけないでしょうか?」 とのアナウンスがあったのです。5番のA席というのは私のとなり。 この車内で知り合い、先程から話をしていた女性でした。

深浦駅でその女性は駆り出され「ミス深浦」さんより花束や記念品の贈呈を 受けていました。「もう少しずれていれば、私だったのになぁ〜」なんて 思いながらも、さっきから気になっていたイカ焼きを頬張っていました (^^;)

いつになくにぎやかだった深浦駅を列車は出発します。ホーム上では ミス深浦の方や、駅員さん、観光案内所の方々が手を振りながら見送ってくれます。

千畳敷という駅に停車しますが、だれも乗車してはきません。だれも下車しよう とはしません。みんなこの列車で終点まで「旅」しようとしているのでしょうか。 千畳敷というのは、寛政4年の地震で海の底が隆起してできた自然の洗濯板のような ものです。その昔、殿様が来ると、ここに千畳の畳を敷き二百間の幕を張って 酒宴を開いたといわれているそうです。そんなところにも車で乗り付けてきたのか 数名の釣人が糸を垂れているのが目に入ります。

「また、くるからね!五能線!」そう思いながら私は座席に腰を下ろしました。


−55−完−
Written By marumi.