私は、泣きながら4歳上の兄に相談しました。兄は財布からお金を取り出して 「探しにいこう」と言ってくれました。私は本当に探しにいく物だと思ってつ いていきました。最寄り駅から80円区間の切符を買い、三田(さんだ)まで 向かいます。有馬口駅からは寂しい単線を走ります。車内で兄はいろいろと話をし て気を紛らせてくれたのです。
三田駅に着くと、山の方角へと少し歩いてみました。「チッチ!ピッピどこ?」 と叫ぶ私。兄も探しているような素振りでした。私は、ここが三田であることな ど気にも留めていませんでした。兄も、ここにチッチとピッピがいるはずなどな いことは百も承知だったでしょう。
夕暮れが近くなり、泣き疲れた私に兄は、こう言いました。なぜか、この言葉 だけは今も印象に残っています。
「鳥籠の中で閉じ込めた鳥は可哀相なんや。そこの雀みたいに勝手に飛び回れる方 が嬉しいんとちゃうか。お前もずっと家の中で閉じ込められとったらどう思う? それより、こうやって、勝手に電車乗って、こういうとこまで来れる方がええやろ?」
この言葉を聞いて私は、あの時のチッチとピッピの行動を思い浮かべました。 大空へと飛び出したチッチとピッピ。そして2回、3回と旋回したチッチとピッピ。 あれはきっと嬉しさのあまりお礼を言っていたのではないかと、そう思ったのです。 そう思うと、二羽のセキセイインコに「今まで閉じ込めていてごめんね」と言いたく なりました。そして、「いつまでも元気にいてね」と願うのです。
チッチとピッピは、そこには居ませんでしたけど、私はなんとなくすがすがしい 気持ちで帰路につくことができました。
片道80円の駅に、私の知らない鉄道風景を見つけたような気がしました。