◆私の好きな鉄道風景◆ −60−

私の好きな鉄道風景
−60−



私は夜の帳が降りてきた東京駅構内にいました。 何にも用事はないけれど、 今日はここから急行列車に乗って大阪へと行こうと思っていました。 そう、まさに内田百間(正確には門に月です)さんの「阿房列車」の気分。

23時05分、出発5分前。 慌ててホームへと上るとすでに「銀河81号」の青い車体は入線していました。 この銀河81号は臨時列車で全車指定席という夜行急行なんです。 そう、寝台車じゃないの。そそくさと乗り込んだ私はようやく安心しました。 23時10分、銀河81号は定刻に発車します。 すべるように動き出す銀河81号。扉の向こうに流れていく人々の顔… 期待と不安が微妙に入り混じった気持ちを乗せて、 銀河81号は大阪へ向けて進行しています。

列車が大船駅を出たところで、日付が変わりました。今日は、 このまま大阪まで列車での旅。 車内の灯りはいつまでも明るいのは、盗難防止のためなんだろうか? と勘繰ってしまいます。私はいつも就寝時になると部屋の灯りを全部消さないと 眠りにくい体質らしくて、明るいといつまでも起きてしまってるんです。 既に周囲からは、やすらかな寝息が聞こえてきます。

私は、静岡駅で買えるお弁当(現在は販売していません) が目当てなので午前2時までは眠る訳にいかないと心に決めていました。 改めて時刻表を見てみることにします。 ダイヤ改正の煽りをうけてか静岡では8分間しか停車しません。 今まではたしか20分くらいは停まっていたように思うんだけど。 さて、この8分間でお弁当を買いに行かないといけないので、静岡駅に 着く前からそわそわしていました。

午前2時丁度。列車は定刻に静岡駅に停車します。 ダイヤ改正前だったら、 確かここで先に発車した寝台急行銀河に追い付くんじゃなかったっけ? と思いながらも、 売り子さんが5号車付近にいることをすかさず確認して駆けだします。 私は遠くから「おべんとくださーい」と叫びながら 小銭を用意しました。無事にお弁当は買えたけれども、今度はお茶。 大慌てでお釣りもらってきたのかどうかすら忘れていました。

車内を見渡すとそれにしてもすいています。 やっぱり最近はみんな新幹線を利用したがる傾向なのでしょうか。 私は新幹線は仕事のイメージがあってあまり好きになれないんです。 特にこういった旅をするときには、できるだけ避けたい物のひとつ。 急ぎの用事とかだったら別なんだけどね。 静岡駅を出るとすぐ、私はさっき買ったお弁当(幕の内弁当・ 税3%込620円)を食べることにしました。 浜松駅に到着する前に隣の女性は眠りについたようでした。

午前4時12分、列車が急に減速したかと思うと停車。「刈谷駅」です。 運転停車(時間調整などのための停車)なので当然扉は開かないし、 また時刻表にも停車時刻なんて載っていません。 貨物列車に数回追い抜かされた約20分後発車。 さらに4時52分、列車は名古屋駅に停車。 ここも運転停車なので扉は開きません。3分後発車。5時15分頃、 列車は木曽川を越えます。 ちょうどこのとき東の空から素晴らしい日の出を目にしました。 「この分なら大阪も晴れてるよね」 晴れ渡った大阪の空を予感した安心感のためか急に睡魔が私をおそったのです。


*時刻は当時のものを使用しているので現在は異なっているものと思います。

−60−完−
Written By marumi.