16時27分、定刻。424列車は、小雨の降りしきる中、「こつん」という小さな ショックとともに、米子駅を出発した。発車や停車の際の、この小さなショックは、 客車ならではのもの。これを肌で感じるべく、私は一番後ろの車両を選び、 かすかに曇った窓から外を眺めていた。
大山口駅。SLが駅前にちょこんと座っている。晴れていれば大山(だいせん) も右手に見えるはずなのだが、あいにくの天気に、麓まで真っ白なベールに 覆われたままだった。
浦安駅。行き違いの特急が少々遅れている、との車内放送。夕刻迫るホームには、 人影すらない。列車は、乗客ではなく目の前の信号が変わることだけを待っている。 5分遅れてやってきた特急は、遅れたことをわびるかのように、 タイフォンを一つ鳴らしてとなりを駆け抜けていった。
泊(とまり)駅。425列車と交換する。少し前まではごく当たり前だった、 青い車体どうしが肩を並べるこんな光景も、最近はめっきり見られなくなった。 ディーゼル列車とはひと味違った旅情を与えてくれる客車列車が消えていくのは、 時代の流れとはいえ、寂しいことである。
日は五分がた暮れ、浜の村々の明かりが、曇った窓を通してぼんやりと 映っている。列車は先ほどの遅れを取り戻すべく、少しだけペースを速めた。
寝台特急でおなじみのチャイムが流れ、車掌が鳥取終着を告げる。
そして、鳥取駅到着。18時51分、定刻。外はもう真っ暗だった。 入換合図のホイッスルが、人影まばらな高架駅いっぱいに響いた。
この客車列車が時刻表から消えたのは、今年3月のことである。
この文章は、1993年8月15日の行程をもとに記してあります。 ちなみに、今年3月、本州からすべての普通客車列車が消滅しました(一部 快速を除く)。 あとは、九州に少し残るのみとなります。Xデーも、そう遠くないかもしれません