ホームに人の輪が出来ている。高校出たてくらいの女の子達と、 そのわきにたぶんその中のひとりの母親と祖母だろう、 毛糸の帽子をかぶったおばさんとばあさんが立っている。 「がんばってね」の声が聞こえる。まん中の女の子が、きょうこの町を出るらしい。 彼女は、泣いていた。
がんばってね、ありがとう、その輪の外で、 おばさんとばあさんが彼女を見つめている。泣き笑いをしながら、 写真を取り合う彼女たちが、一緒にいられる時間はもう少ない。 発車のベルが鳴った。じゃあね、の声がする。泣くまいとしているのか、 おばさんとばあさんの顔がひきしまる。
ドアが閉まる。町を出る子、町に残る子、そして母親、祖母。 それぞれの生き方に、線が引かれたような気がした。エンジンの音が高鳴り、 列車がゆっくりと動き出す。窓の外でみんなさかんに手をふっている。 おばさんとばあさんは身じろぎもせず、列車を見ている。 全てが流れ去って、列車は大湊を後にした。 泣いていた彼女の姿は、この席からは人影になって、見えない。
列車は下北半島に沿って走る。一面の雪の中、子供達が校庭の雪かきをしている。 晴れ渡った空の下、それでもきーんと冷たそうな陸奥湾と、 後ろに遠ざかる恐山をぼんやり見ていると、列車は野辺地に着いた。 列車から降りた彼女は、もう涙は見せずに、 跨線橋を渡って東京方面行きのホームに立っていた。