◆私の好きな鉄道風景◆ −39−

私の好きな鉄道風景
−39−


特急「すずらん」。名前から北海道を走る特急であることに気が付 かれるかもしれませんね。この特急は、室蘭本線を駆け抜け、東室蘭駅で分 岐し室蘭まで向かいます。東室蘭から室蘭までは各駅停車になる特急です。

東室蘭を出たとき、車内は学生たちでいっぱいになりました。車体は特 急ですが、この駅からは特急券が必要なくなります。輪西(わにし)、 御崎(みさき)でかなりの人が下車します。そして、母恋(ぼこい)駅。夕刻 になると無人になるこの駅名が、ふっと私に母の姿を思い起こさせました。 私の好きな鉄道風景−12 で見つけた駅に今日は実際に来てみたわけです。

終着の室蘭駅から、駅前のバスターミナルへと急ぎます。乗り換え時分 は3分ほどしかありません。私が乗り込んだのは「地球岬団地行き」。 地球がまるく見える灯台があるそうで、夕刻には夕日が当たって、金 色に輝く岩があるんです。この岬へいって、金色に輝く「金屏風」 を観光しようと思っていました。時間は申し分無いくらいです。 太陽が海岸線に近くて今にも落ちてしまいそうです。 バスは復路で母恋駅前を経由します。帰りはここから電車に乗ることに しようと決めました。

バスはだらだらと坂を上り始めます。室蘭を出てから15分ほどで地 球岬団地に着きました。190円です。手持ちの道内時刻表によれば ここから岬までは坂を上り詰めて徒歩10分かかると書いてあります。 太陽の角度が多少気になりましたが、早足で向かうことにします。

大きなボストンバッグが肩に食い込んでとっても歩きにくい思いをしました。 歩いている私の横を観光ハイヤーらしき車が通り過ぎていきます。 前方に地名由来板があることに気付き読んでみると「金屏風」の説明でした。 柵に身を預け眼下を見下ろせばそこにはまさに金色に輝いている岩礁があったん です。それだけでここまで歩いてきた疲れがすべて消え失せました。 先のハイヤーも到着していて、二人の女の子から写真を撮ってくださいと 頼まれてしまいました。 彼女たちは運転手さんを間に挟む恰好で金屏風を背にしてポーズ。

間もなく、夕日が沈むということで、私は先を急ぎました。坂の途中で、前方に灯台 が見えたので気を取り直し再び歩きます。灯台には「母なる大地、母なる 地球」と書かれています。カメラを持った人や三脚を立てている人が大勢居ました。 みな、夕日の沈む方向を見つめています。そのどの顔も金色に輝いて いました。海は太陽の光を映し、その扇をどんどん広げていきます。太陽が 海の端にかかったとき、灯台の上で歓声があがりました。素晴らしい日 の入りです。正面の海を金色に輝かせながらゆっくりと落ちていく夕日。 わずか5分程度のドラマは幕を閉じまたが、空には余韻を楽しむかのよう に夕焼けが微笑んでいました。地球岬団地バス停では、地元のおばさんから ふかしたてのトウモロコシを5本貰ってしまいました。 バスの車内にトウモロコシの香ばしい香りが充満して…。

−39−完−


Written By marumi.