◆私の好きな鉄道風景◆ −40−

私の好きな鉄道風景
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やまびこ31号は朝もやの中を駆け抜けていきます。車内で朝食に買っ た駅弁を食べ、午前9時08分、列車はゆっくりとホームに滑り込 んできました。ここで私は急行列車に乗り継ぎます。新幹線ホームから約80メ ートル離れたところにある無人の小さな在来線ホームへと急ぎます。

ここは、遠野(とおの)へと向かう観光客で賑わうはずの新花巻駅です。 「新」という冠詞がついているにもかかわらず、無人となっています。陸中 1号は、遠野から釜石を周り宮古へと向かいます。途中の釜石駅では、 進行方向が変わるんだそうです。朝も早い出発だったためか、私は車中で すっかり寝入ってしまったようで途中の風景をほとんど覚えていません。

目が覚めたとき、列車は遠野駅に止まっていました。民話の里・遠野。い つか遠野で降りて旅をしてみたいと思います。陸中1号は、釜石駅を経由して、 宮古へと到着しました。ここから三陸海岸を走るという「三陸鉄道北リ アス線」に乗り継ぎます。第三セクターとなった鉄道で、私はこれ が始めての乗車です。海岸線に沿っているような感じだったので 海が見えるかと期待したがその期待は大きく裏切られてしまった形でした。 リアス式海岸の入り組んだ地形をトンネルや橋梁でどんどん直進していきます。 チラチラと海岸は見えるものの、五能線を経験している (私の好きな鉄道風景−1−参照) 私は、興ざめするに充分でした。

三陸鉄道の各駅には、それぞれユニークなサブタイトルがついてい ます。神楽の里・佐羽根(さばね)、銀色のしぶき・田老(たろう)、 旅の八郎・摂待(せったい)、泉湧く岩・小本(おもと)、カルボ ナード・島越(しまのこし)、カンパルネラ・田野畑(たのはた)、 はまゆり咲く・普代(ふだい)、義経の祈り・堀内(ほりない)、 西行の庵・野田玉川、ソルトロード・陸中野田、縄文の花・陸中宇 部、瑚珀いろ・久慈(くじ)。

久慈駅からは、JR八戸線で八戸へと向かいます。時間が時間だけに、 学生に取り囲まれる形になりました。八戸からは青森へ行き、そこで宿 泊することにしていました。でも、財布を見て私は愕然としたんです。 お金がないのです。朝も早かったので銀行に行っていなかったことを こんなときに思い出してしまいました。八戸で銀行に行かねば、青森で 泊まれません。八戸には銀行どころかビルが見えないのです。私は焦りました。 38分しか乗換の時間はありません。その間になんとか銀行を見つけなければ…。

タクシーの運転手さんに「銀行はどこかにありますか?」と聞くと、5分 ほど先にあると言って案内してくれました。運良く「みちのく銀行」があった のです。ほっとした私はお金を引き出し、膨らんだ財布を手に持ったままの状態で 青森行きの列車に乗り込んだのです。

−40−完−


Written By marumi.